風の行方

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help リーダーに追加 RSS エッセイ  「満点星躑躅のような人」へ

<<   作成日時 : 2008/04/16 23:08   >>

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全然実感が無い。家に帰っても、あの人が「お帰りなさい」と迎えてくれることはもう無いのだな。最後は、貴女の手術後の経過を見てもらうのに病院に付き添って、薬を貰うまでの時間一緒に隣にいたことか。

切ったお腹の傷が怖くてお風呂に入らなくて担当医に怒られたね。その日から自分が付き添ってお風呂に入った。こちらは足だけまくって、貴女がお湯に漬かっている時は昔話しながら。後は腕や足や背中や石鹸つけて洗ってあげた。そのくらいしか出来なかったけど。

貴女は’もうこのへんでいい’と自ら幕を引いたでしょう。’これ以上迷惑をかけて生きていても’と。

貴女は最後に何を見たのか?何を感じ、何を思ったのか?

貴女のして来た事は貴女が長年連れ添った人の様に表立って賞賛されるような事ではないかもしれない。いつも夫の後ろを歩き、表に出ずあなたが支えてきたからこそあの人があった。名が知られていなくても貴女はそれだけの事をして来た。それがどれだけ大変なことか。

父や母には厳しく、孫には優しく。しかし、良くない事には難しい顔をしたし、でも絶対庇ってくれたね。
貴女には色々教わったよ。花の名前昔からの先人の知恵や言い伝え、地元の人たちとのあり方や家を守ることの辛さも。「辛い、苦しい」は言わなかったけれど感じられた。

いつも思ってたよ。あなたは自分のやりたいこと出来てた?して来た?周りの事ばかりでいつも自分の事後回しで。貴女の夫の様に、最後は変わり果てた姿を見せまいとそのまま亡くなった。貴女らしいよ。

「貴女に何をしてあげられたか」を考えるより「これから自分がどうしていったらいいか」を考える方が貴女は喜ぶ?

この世の現実では過去に時間は戻らないが、そちらでそのような事が可能なら、貴女が一番良かった頃に又いけるといいね。
恐らく貴女が居なくなった実感はこれから徐々に現れるのだろう。道具を目にしたり、昔作ってくれた味に出会った時、庭に咲いていた花を街の中や公園で見掛けた時。貴女との生活の記憶が巻き戻される。例え自分が忘れかけていても、ふとした瞬間’こんなこともあったのだなー’とね。


もう何を聞いても答えてくれない、心配もしてくれない。でも、今まで注いでくれた心はきちんと自分の中に留めてある。留まってる。何かの時にはその保管庫を開けて考えてみるよ。あなたならどうしたろう?とね。

音も無く静かに、絶え間なく田畑や庭に降り積もる細雪。それをコタツの中に居て何かを喋りながらではなく、ただ一緒に雪見障子から眺めていた。それはもう出来ないね。

自分は  貴女の何を受け継いで行けるだろう。

4/18  追記
丁度読んでいた「天声人語」に次のようなページが目に留まったので以下の文を載せます。

__「赤い鯨と白い蛇」という映画がある。太平洋戦争中、若い士官と女生徒が交わす約束。
若い士官は空襲で家族、縁者を全てなくす。淡い思いを寄せ合う女生徒に「自分がこの世に生きたことを覚えていて欲しい」と頼み命を落とした。
女生徒は約束を守り戦後を生きて来たが、老いた頃認知症が兆す。そして、「私が忘れたらあの人は二度死ぬことになる。」と涙を滲ませた。

せんぼん よしこ監督(79歳)は中国の大連生まれ。香川京子さん演じる「老いた女生徒」と同じ時代を生きて来た。

アフリカのある部族には死者を二通りに分ける風習がある。人が死んでも、その生前を知る人が生きているうちは死んだ事にはならない。生者が心の中に呼び戻すことが出来るから。 記憶する人も死に絶えてしまった時、死者は真に死者になる。__

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